10月貿易収支が7ヶ月ぶりに黒字となった。
貿易収支の黒字、と聞くとなんとなく良いものだと感じる。また、貿易赤字と聞くとなんだか悪い印象を受ける。しかし、この赤字、黒字は家計の赤字・黒字とは違う意味で、赤字・黒字にこだわる意味はあまりない。
そもそも、貿易収支とは何かというと国際収支統計の一項目にすぎず、国際収支統計とはWikipediaによると以下の通りだ。
国際収支統計(こくさいしゅうしとうけい)は、一定期間における国やそれに準ずる地域の対外(居住者と非居住者との間の)経済取引(財とサービスおよび所得の取引・対外資産・負債の増減に関する取引・移転取引)の統計である。
平たく言うと、ある期間(一年とか四半期とか)に日本国で行われた経済活動(貿易や観光など)の結果、日本から海外へお金が流出しているのか、海外から日本へお金が入ってきているのかを確認する統計である。
国際収支統計の項目を整理すると以下の表のようになる。
黒字(プラス) | 赤字(マイナス) | ||||
経常収支
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貿易サービス収支
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貿易収支 | 商品の輸出 | 商品の輸入 | |
サービス収支 | サービスの輸出 | サービスの輸入 | |||
所得収支 | 日本の個人、企業が海外で稼いだ所得 | 海外の個人、企業が日本で稼いだ所得 | |||
経常移転収支 | 商品・サービスに関した海外からの援助・贈与など | 商品・サービスに関した海外への援助・贈与など | |||
資本収支
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投資収支 | 金融取引による資本流入 | 金融取引による資本流出 | ||
その他投資収支 | 非金融取引による資本流入と移転 | 非金融取引による資本流出と移転 | |||
外貨準備増減 | 外貨準備の減少 | 外貨準備の増加 | |||
誤差脱漏 |
※プラス要因は黒字と表現され、マイナス要因は赤字と表現される。
黒字とは単に物を買うよりも売っているだけで、赤字とは単に物をたくさん買っている、というだけだ。 大航海時代の重商主義では輸出が輸入より多いと勝ち!であったが、現在の日本ではこれは当てはまらない。
日本の貿易モデルは
- 原材料やを海外から輸入し、加工した商品を輸出する
- 食料品を海外から輸入し、国民が消費する
といったものであり、一概に輸出が多いから良い、輸入が多いからダメ、とは言えない。輸入が少ないということは内需が低迷しているとも考えられるからだ。
さて、貿易収支の黒字赤字には大した意味がないにもかかわらず、これのみを見ていてはまさに木を見て森を見ずである。
ニュースの一次情報となっている 財務省貿易統計 Trade Statistics of Japan の資料を見ると、前年同月よりも輸出輸入共に減っている事がわかる。
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2015/2015104.pdf
ニュースサイトでは
原油や液化天然ガス(LNG)の大幅下落で、輸入が2桁減となったのが主因。輸出も経済減速が懸念される中国向けの不振などで14カ月ぶりの減少に転じた。
とされている。
実際に資料を見ると、まず地域別輸入では特に中東地域からの伸率は他より抜きん出ており、原油価格の下落が影響していると思われる。
次に地域別輸出で見ると、中国よりもインドネシアやマレーシア、ブラジルの伸率(マイナス)の方が大きい。一概に中国の景気だけが原因とは言えないと思う。もちろん、中国の景気減速が他の国にも影響し、周辺国の消費が抑え気味になっている事が日本の輸出が減速している原因でることも想像できる。
資料を見て私が問題だな、と思う点は輸入が減っている点だ。輸入が減っているのは原油の影響もあるだろうが、冒頭にも書いたように、消費税の影響で内需が減っているのではないか?と考えられるからだ。
日銀の審議員である原田氏は栃木県の金融経済懇談会で以下の発言をしている。
特に消費について見ますと、消費税増税の影響はかなり大きなものがあり ます。消費総合指数――供給側の統計と需要側の統計を組み合わせた指数で、 GDPベースの消費に近い――は、駆け込み前のピークをいまだ超えていま せん。しかし、消費税を増税すれば、その分、家計の実質所得が減少します から、消費が減るのは当然のことです。肝心なのは、それにもかかわらず、 トレンドとして実質消費が増大しているかどうかです。日本銀行の中心的な 見方は、「消費は底堅い」ですが、直近、懸念される動きがあるように私は思 います。生産についても同様の状況にあります。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko151111a1.pdf のp3
日本経済の6割は内需であると聞いた覚えがある。それが落ち込んできているというのは由々しき問題だ。補正予算は3兆円台で調整しているようだが、例えば低所得者や子育て世代への現金給付といった方法で内需の落ち込みを支えられるような策を講じてほしい。
マクロ経済学をかじると、国際収支統計の一項目である貿易収支が黒字だったという報道に一喜一憂するだけでなく、こうした裏事情を分析でき、投資や話(ブログ)のネタになって楽しい。