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ITインフラ系エンジニアの日記

ITインフラ系エンジニアがITのことや投資のことなどを綴ります。

「新築版 O-uccino タイムズ 」を読んで

先日、家の郵便受けに「新築版 O-uccino タイムズ」という新聞風広告が入っていた。大見出しに「賃貸vs購入 今の家賃とほぼ同額で買えたなら?」と打ってあり、投資雑誌やサイトで定期的に行われる「持ち家と賃貸どちらがお得か?」という永遠議論が行われる企画である。※オウチーノは不動産業者で、上場している。以前、株式の購入を検討した事もある。

 

普段ならこういった広告はすぐにゴミ箱行きなのだが、ブログのネタとして、また、これまで学習してきたことを整理すべく、内容を分析していく。

 

まず一面の上側四分の一くらいのスペースに「今の家賃総額はどれくらい?」という枠がある。そこには以下のように比較表とコメントが記載されている。

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【表】

月額家賃例 年間   5年後 10年後 25年後 35年後
8万円 96万円 480万円 960万円 2,400万円 3,360万円
10万円 120万円 600万円 1,200万円 3,000万円 4,200万円
12万円 144万円 720万円 1,440万円 3,600万円 5,040万円

                           ※月々の共益費などを除く

 

【コメント】

月額家賃例と、今後支払うであろう家賃の総額を表にすると、35年後には8万円の家賃でも3,000万円を超える。賃貸でも、時間の経過によって購入物件と同等の金額が必要なことが分かる。

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次にこの表の下に続く記事からいくつか気になったフレーズをピックアップする。

 

住宅購入の上で一番ネックになるものが、予算。

 

新築住戸に匹敵する費用を、みすみす”払い捨て”にしていると言えまいか。

 

発想を転換して、その家賃と同じ額の返済で、いくらまで住宅ローンが借りられるかを逆算してみよう。

 

当然、同じ返済額でも借りられる額はさらにふくらみ、むしろ家賃よりも少ない負担で買えるケースさえある。そして何より、手元に資産として残るのは、賃貸では得られない安心だろう。

 

家賃並み、あるいはそれ以下の負担で住宅ローンを組むには、前提となる条件がある。それは少しでも早く買うこと。

 

例えば借入額3,000万円、固定金利3%で元利均等のボーナス時返済なしと仮定する。その場合、返済期間35年なら返済月額は11万5477円であるのに対し、返済期間25年だと同14万2267円と大幅に跳ね上がってしまう。しかも、遅くなるほど余分あ家賃を支払うことになり、子どもの進学に伴って教育費のピークと重なってしまうこともあり得る。

 

住宅ローン金利はかつでないほどの低水準!超低金利時代のうちに買うのが吉!回復基調といえど、まだまだ不況を脱する見通しは暗く、金利を上げられる状況にはないが、もちろんこの超低金利時代がいつまでも続くとも限らない。むしろ金利上昇の可能性はあるものと思って、早めの決断を!

 

残り下半分と裏面は物件の広告だ。

さて、企業側としては記事を読んで

 

「そうか、今の家賃をこれからずっと支払い続けると手元には何も残らないのに対して、住宅ローンを組めば家賃と同じくらいの負担で手元に資産が残るのか。

「しかも今は超低金利時代っていうし、金利が上がる前に申し込んでみようかな。記事の下と裏面にはモデルルームの案内もあるし…Quoカードも貰えるみたい。行くだけ行ってみようかな。」

 

といった感想を持つことを期待しているのだろう。

 

ここで冷静に分析してみる。

 

まず、冒頭の表では具体的なイメージを作り、「賃貸で払う家賃負担とローン負担は同じくらいなんだ」という印象を持たせているが、ローンの総支払額を記載していない点に注意が必要だ。

3,000万円のローンを組んだ場合、支払う金額は3,000万円ではない。3,000万円+金利である。下の方で3%の固定金利とした場合に言及されているが、こちらは月額を示すだけで、やはり総額は示していない。

この点が上手い。

 

では、3,000万円35年ローン、固定3%とした場合の返済総額はいくらになるのかと言うと…

48,490,768円

※計算は住宅保証機構株式会社のHP 返済額の試算 にて行った。

 

3,000万円借りたのに、返済は4,849万円となり、金利分が1,849万円となる。記事ではあたかも3,000万円返済すれば家を手元に持てるという印象を与えているが、実際は5,000万円近く支払う事になる。

これでは、月額家賃8万円の家に35年間住んでいた方が安い。

 

私は今賃貸で月62,000円支払っている。年間にすると744,000円である。35年間この家に住むとすると約2,600万円となる。

今のところ、35年もこの家に住むつもりは無いが、少なくとも、5年間住んでいるので、372万円支払っている事になる。更新費用も含めるとおよそ400万円だろうか。この400万円は”払い捨て”なのだろうか。

 

今住んでいる住宅が私の資産にならないという意味では”払い捨て”であるが、この住宅に住む事で実家からの通勤よりも交通費的にも時間的にも効用があるという意味においては”払い捨て”ではないと言える。

 

これはお金の問題ではなく、アニマルスピリットの問題となるので、「では手元に資産として残る安心感はどうだ?」という突っ込みも受け入れなければフェアではない。

この安心感については、まず資産だけでなく、負債も見て考えなければならない。

 

表にすると以下のようになる。

資産 負債
住宅 3,000万円 借入額 3,000万円
    借入金利 1,890万円

 

借りた当初は住宅という3,000万円分の資産を手に入れるものの、負債として借入額+金利が計上される。

負債は返済していく事で減っていくが、一方で不動産資産の価値も購入後は減っていく可能性がある。

 

したがって、返済途中のあるタイミングでは以下のように負債の額と資産価値の両方が減っていくことになる。(数字は適当)

資産 負債
住宅 2,000万円 借入残額 2,000万円
    借入金利 1,000万円

 

そして返済が終わった時点では、以下のように資産価値が少しでも残っていればプラスだが、まったく残っていない場合も考えられる。もちろん、逆に資産価値が5,000万円になっている可能性もある。

 

資産 負債
住宅 1,000円 借入残額 0円
    借入金利 0円

 

払い続ける35年間のほとんどを債務超過の状態で過ごし、払い終わった35年後に資産価値が残っている保証はどこにも無い。天災があるかもしれないし、ローン返済中になんらかの事情で引っ越しをしなければならないかもしれない。返済途中で引っ越す場合、家を売ったお金で残りのローンを返済できれば良いが、できなかったら…

 

このような危険性があってもなお、「手元に資産として残る安心感」は説得力があるのだろうか?

あるいは居住用に購入した多くの人は売る時のことなど考えないかもしれない。その場合、債務超過も気にならないと考えられる。それはそれで幸せかもしれない。

 

不動産市場は閉鎖的な市場である。そのため、自分の持っている住宅の価値が具体的にいくらなのか、どのように変動しているのかが素人にはわからない。株式は上場していれば市場に価値が公開されており、かつ、リアルタイムで変動の様子を確認できる。

このようにオープンな株式市場でも35年後の株価がわからないのに、クローズドな市場である不動産については何をか言わんやである。

 

それでも「自分のものという安心感に勝るものはない!」と言うのだろうか?

もちろん、賃貸の方に全くデメリットが無い訳ではない。賃貸は大家さんに退去してくれと言われれば退去しなければならないし、高齢になった時に借りられないというリスクもある(最近多い孤独死が発生すると大家さんとしてはダメージがでかいため、高齢では借りられない可能性を無視できない。)。

 

最後に金利に言及しておく。

広告では「超低金利時代」と謳っている。たしかにデフレが続いているこの20年近くの金利は「超低金利」である。銀行金利は定期預金でも1%に行かないし、国債長期金利(10年)はおよそ0.3%だ。

 

マクロ経済学では金利には名目金利と実質金利があり、

 

「実質金利=名目金利ー予想インフレ率」

 

という式で関係を表す。

 

例えば名目金利が3%として以下のそれぞれの場合で実質金利

  1. 予想インフレ率が+2%の時・・・実質金利=3%−(2%)=1%
  2. 予想インフレ率が−2%の時・・・実質金利=3%−(−2%)=5%

となる。

 

つまり、予想インフレ率がプラスの時(インフレ)は実質金利が低くなり、逆にマイナスの時(デフレ)は実質金利が高くなるということになる。

インフレによって実質金利が抑えられるということは、3,000万円を3%で借りても資産価値がそれ以上の利回りで上昇するため、実質1%の金利で借りる事ができるということだ。

逆にデフレの時は、3,000万円を3%で借りても、資産価値が下がっていくので、実質負担が5%になってしまう。

 ※実際に支払う金額はどちらの場合も4,849万円である。支払った後に残る家の資産価値が金利以上かどうかの話をしている。

 

これは何を意味しているのかと言うと、インフレの時は借金をしてでも投資をしろ!逆にデフレの時は借金をできるだけするな!ということになる。

 

インフレ率とは物価(世の中の全ての商品やサービスの加重平均)の変動率である。インフレ率が上がっていると言う事は物価が上がっていると言う事なので、インフレ(と予想される)の時は野菜の値段も上がれば、住宅の値段も上がる。また、銀行の金利も上がる。なぜなら、銀行としては預金者に支払う金利が高くても儲かる投資がそこら中にあるからだ。

逆にデフレ、インフレ率と物価が下がっている(と予想される)時は、野菜も住宅価格も銀行の金利も下がる。これは、銀行としては預金者に支払う金利以上に儲けられる投資案件が少ないからだ。

 

そのため、単に超低金利だからといって飛びつくと、実質負担が大きくなる(具体的には住宅の資産価値が落ち込んでいく)。

 

今の日本はデフレから脱却しようと政府・日銀が努力をしている。実際に半年先の実体経済を表すと言われる株価は上がっている。

これから徐々に「インフレ率がプラスになる」と世の中全体が予想するようになるかもしれない。これをチャンスと見て行動を起こすか、まだ時期尚早として静観するか、投資家でなくとも、一考の価値はある。

 

最後に、個人が住宅を購入するかそれとも賃貸で良いと考えるかはその人の事情や背景に依存するので一概に「これだ!」とは言えないし、断言している雑誌や経済評論家などはそういうポジションであるというだけのことだ。

 

私のポジションは、「よく考えた結果、買いたければ買えば良い」である。人は感情の生き物なので、「〜したい!」という欲求、特に買い物や生理的な欲求を無理に抑える必要は必ずしもない。