元ITインフラ系エンジニアの日記

元ITインフラ系エンジニアがITのことや投資のこと、コンサルのこと等を綴ります。

方針

1 はじめに

先日、職場の派遣社員について記事にした。

ring-bell.hatenablog.com

彼を仮にAさんとしよう。 3月中旬にAさんについてチームリーダーと派遣元の営業で話し合いをした。年度始めの忙しさから棚上げになっていたのだが、最近いよいよ去就について話が動き始めた。Aさんの所属するチームの人に聞いた限りでは、すぐに人を変える事はできないためしばらくは居る事になったらしい。改善する様子が見られれば残留するが、その可能性は薄いと見ている人が多い。

Aさんはなんども同じミスを繰り返している。そのためチームの雰囲気はかなり悪い。同じ部屋にいる私も息苦しくなるほどだ。Aさんは私より四つほど若く、少し気になっていたので思い切って2人きりで話し合う事にした。Aさんの話を聞き、彼は「目的と方針をたてられない人」ということがわかった。そこでどのように「目的と方針を策定すれば良いか」について一緒に考える事にした。

以前、目的をもって行動する事について記事にしたことがある。

ring-bell.hatenablog.com

そこでは、目的をもって行動する事で失敗したときの反省が具体的になり、うまくいったときは再現性をもたせる事が出来るようになる、というメリットを紹介した。今回はこれをもう少し掘り下げた内容となる。

2 Aさんについて

その前にまず、Aさんの仕事について簡単に触れておく。
Aさんはいわゆるオペレーターをしている。例えば、依頼書に基づいてあるファイルサーバーに新プロジェクト用のフォルダを作成したり、メーリングリストを作成したりしている。仕事の流れとしては、

「ユーザーから依頼がくる→社員が受け付ける→Aさんへ作業が指示される→マニュアルに沿って作業を行う」

という流れだ。
Aさんの行う作業には必ずマニュアルがあり、これに沿って行えばミスが起きないようになっている。もちろん、人間なので見落としや見間違いなどヒューマンエラーは避けられない。ミスをした場合は振り返りシートを作成し、チーム内にミスとその原因、対策を共有するということになっている。

次にAさんの職歴について触れておく。Aさんは社会人4年目で前の現場ではサーバの構築を行っていた。かなりイケイケどんどんな現場だったらしく、トライ&エラーでミスをしても修正すればOK という雰囲気であったらしい。今の職場ではミスはかなり厳しく指摘されるので、まったく違う世界だったと聞く。

3 話し合い

そんなAさんと業務時間後に話をした。最初彼は緊張していたようだったが、次第に思いの丈を語り始めてくれた。彼の話はだいたいこうだ。

  • ミスを繰り返してしまって、迷惑をかけていることが非常に心苦しい。
  • ミスを繰り返さないようにしたいのだが、何をどうすればよいのかわからない。
  • チームメンバーがアドバイスをくれている。実践しているがミスが減らない。
  • どうしたらこの状況から抜け出せるのか見当もつかない。

Aさんなりに考えてはいるものの、結果が出ず、混乱しているようだった。そこで、一つ一つ業務について聞く事にした。私はAさんの行っている業務についてまったく知識がなかったので、

「どういう業務をしているの?」

と聞いた。するとAさんは業務の説明をほとんどせずに、彼自身が犯してしまったミスとその改善方法について滔々と語りだした。私はその話をジッと聞いた。その上で、こういった。

「Aさん、あなたが一生懸命改善策を考えていることはわかりました。私が聞きたかったのはAさんがどういう業務をしているのかと言う事です。例えば、ファイルサーバーにフォルダを作成する業務はどこから依頼がくるのですか?」

すると彼はこういった。

「依頼書が来ます。」

私はちょっと呆れたが、ぐっと堪えて質問を続けた。

「その依頼書はどういう人からくるのですか?」
「ユーザーからです。」
「ありがとう。それでは、依頼書が来て、その内容を確認する。そしてマニュアルに沿ってフォルダを作成すると言う事ですか?」
「そうです。ただ、手順の内容は理解している……つもりなんですが……。これについてはきちんとチームメンバーの方に疑問点があれば質問するようにしていこうと思っています。ただ皆さん忙しそうなので……まぁ僕のせいなのですが……なので、17時くらいに時間をとってもらって質問に行くようにしようと思います。」
(これは一回整理した方が良いな)
と思い、少し会話をリードする事にした。というのも、彼はあまりにも細かな視点でしか見えていないように思えたからだ。

4 目的→方針→行動

このまま話し合いをしても良い方向にはいかないと感じた私は、こう切り出した。

「Aさん、正直言ってあなたはチームメンバーからかなり不信感をもたれています。このままでは部屋の空気も悪くなるし、ストレスも溜まるでしょう。そして、ストレスが溜まっていればまたミスをする可能性が高いです。そこで、一旦G.W.までにチームメンバーから信頼感を取り戻すようにしませんか?」
「そうですね……このままじゃいけないと思うので、なんとか今月中に良い方向にむかえたらと思います。」

Aさんの目標に「G.W.までにチームメンバーからの信頼感を取り戻す」と設定した。ここから会話を書いていくと膨大な量になるので、割愛するが、要するに

1) 今の問題を定義する。
2)なりたい姿(理想)を目標に設定する。
3)その目標を達成する為の方針を策定する。
4)方針に沿った行動を計画する。

ということを話した。

目標と方針、そして行動計画を策定するに当たって、彼に戦略と戦術の違いについて質問した。すると、

「そんなこと考えた事も有りません」

と返ってきた。20数年間生きてきて、戦略と戦術の違いについて考えた事の無い人が居るとは驚いた。Aさんはゲームが好きだと聞いていたので、戦略ゲームを例にこう説明した。

「ゲームの目標が敵国の占領だとします。兵科で槍隊が最強だとします。しかし、槍隊を作るには資源が必要です。資源は限りがあります。そして100ターン以内に占領しなければ負けとします。例えば、60ターンまで資源をかき集めて、20ターンで槍隊を作って、20ターンで攻撃する、というのは戦略です。その中で、資源の効率的な獲得方法や、槍隊の陣形、どこから攻め入るかは戦術です。この違いはわかりますか?」

あまりよい例えではなかったかもしれないが、要するに、戦略とは目的を遂行する為の方針であり、戦術とは目的を達成する為の具体的な手段・行動のことである。Aさんは戦術ばかりに目がいっているため、空回りしているのである。

「目的→方針→行動」をホワイトボードに書き、各項目に具体例をいくつか書いたらわかってくれたようだった。

例1
目的 :今月中にチームメンバーからの信頼を得る。
大方針:依頼された作業を依頼通りに行うことで信頼ポイントを稼ぐ。
中方針:依頼通りに作業をこなすために疑問点を無くしてから作業を行う。
行動 :疑問点を解消するにはユーザー業務の理解が必要であるが、そこの理解ができていない。
    そのため、作業前にチームメンバーにユーザー業務について質問する。

例2
目的 :3ヶ月以内に、IT系の資格試験に合格する。
大方針:効率的な学習を行う。
中方針:問題を説きながら理解する事で効率化をはかる。
行動 :解説と問題が見開きになっている問題集を三周する。

例3
目的 :年間100万円貯める。
方針 :生活レベルは落とさない。
行動 :より稼ぐために残業を増やす。

上記はあくまでも一例であって、それぞれの目的に対する方針や行動は十人十色である。重要なのは、このように考える癖を持つことである。例3において、「生活レベルを落とさない」とせずに、「生活レベルを落としても良いからとにかく目的を達成する」とすれば行動は「実家に帰る、自炊をする、買い物はネットの格安ショップで行う」などと変わって来る。あるいは、方針が同じでも転職をしたり副業をしたりするなど行動が変わる事もある。
繰り返しになるが、大事な事は、目的・方針・行動を考える癖を持つことである。そして、思い通りの結果にならなければそれぞれを修正すれば良い。
年間100万円貯められなかったとしたら、

  1. そもそも目的が過大だったのか
  2. 方針が過っていたのか
  3. 行動が過っていたのか
  4. 全てが過っていたのか

と分析する事が出来る。漠然と100万円を貯めようとして失敗しても、「運が悪かった」「不景気なのがいけなかった」「政府がー」といった言い訳しか生まれない。これでは100万円貯金への道はかなり厳しいものとなる。

5 余談

Aさんとの話し合いは15分くらいを予定していたのだが、1時間も経っていた。彼からは

「こういうことって考えた事もなかったです。でもかなり整理出来た気がするので、休日にしっかり整理します。ありがとうございます。」

と言ってもらえた。そして帰り際、

「どうして業務に関わりのない僕にこんなアドバイスというか、時間をとって相談にのってくれたのですか?」

と質問された。正直言って、大した理由はなかった。ただ部屋の空気が悪かったから、それを少しでも良くしたいと思ったからであったのだが、もう一つ理由があった。

「Aさんが年下だったからかな。もし僕よりも年上だったら、勉強不足な奴なんて早くいなくなってくれよって思って放置していただろうね。」
「Ring_bellさんっておいくつなんですか?」
「……今年で28です。」
「そうなんですね。僕もそういう歳の取り方をしたいです。」
「……(まだ28歳なんだけどなぁ。そういう台詞って40歳くらいの中年に言うものじゃないのかなぁ。でもまぁ)ありがとう。」

Aさんと話していて、教育機会は非常に大事だと感じた。私は運良くそこそこの大学に通わせてもらえ、そこそこの会社に入社した。大学でも会社でもきちんとした教育を受ける事が出来た。特に会社の新人研修ではマナーだけでなく、論理的思考、演繹法帰納法を使った交渉術について学ぶ機会があった。
Aさんの経歴を聞いているとそういう機会がなかったことが伺えた。今就職活動をしている学生諸君にはこうアドバイスしたい。

あなたがよっぽど優秀でなければ、新人研修に力を入れているところにいった方が良いですよ。

そして最後に、目的と方針の大切さを教えてくれる本を2つ紹介しておく。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

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