元ITインフラ系エンジニアの日記

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『アニマルスピリット』(ジョージ・A・アカロフ、ロバート・シラー著 山形浩生訳)

 

アニマルスピリット

アニマルスピリット

 

 

行動経済学について学びたいと思い、図書館の蔵書検索したところ見つけた。翻訳はピケティの『21世紀の資本論』を翻訳した山形さんだ。発売日は2009年だが、この頃はサブプライムローンの崩壊に端を発するリーマンショックによってアメリカのみならず、世界中が不況になっていた。

 

アメリカ、欧州の中央銀行は大規模な金融緩和を行ったが、日本は行わず、円高不況となった。翻訳者の山形さんはあとがきに

いまの日本の不景気は、マクロ経済学理論がアニマルスピリットを考慮しなかったせいで起きているのではない。日本銀行をはじめ、経済官僚たちが、従来のマクロ経済学理論ー不景気になったら金融緩和しましょうというものーを普通に適用しなかった(いまだにしていない)せいで起きている。

と書いている。

このことは2013年の黒田バズーカによって正しい事が証明された。日本が20年もデフレであるのは本書に記載されているアニマルスピリットではなく、マクロ経済学の基本理論を実践しなかっただけである。

 

さて、現代経済学は「アニマルスピリット」を軽視し、人は総体として常に合理的な行動をとる、という前提で様々な経済モデルや理論が形成されてきた。しかし、明らかに「不合理」な行動を大多数の人が同時にとることが見受けられる。この理由を説明しようとすると、「アニマルスピリット」を無視する事はできない。

本書で説明しているアニマルスピリットとは以下の5要素からなり、それぞれが独立しているのではなく、相互に影響している。感情、と言い換えてもよさそうなアニマルスピリットを用いて現在の経済金融危機にどう対処すべきか、この点については第二部で論じている。

 

【アニマルスピリット】

  1. 安心
  2. 公平さ
  3. 腐敗と背信
  4. 貨幣錯覚
  5. 物語

 

第二部は以下の八つの質問についてアニマルスピリットの視点から解説している。

個人的に意外だったのは、貨幣錯覚が一時期、間違いであるとされていたことだ。しかし、よくよく思い返してみると「アベノミクスのせいで実質賃金が下がっている!」と声高に主張している政治家や経済評論家が少し前にたくさんいたことを思うと、さもありなんと思う。実質賃金が下がっていても名目賃金が上がっていれば問題ない。なぜならば、給与を物価で割って前年同月比で計算するサラリーマンはほとんどいないからだ。また、インフレ率の動きは賃金の動きよりも早い。物価はひと月で上下するが、賃金は半年・一年毎にしか上下しないからだ。そのため、インフレ率が上昇し始めた時に「実質賃金が下がっている!」という主張を大声でするのは時期尚早である。

 

【第二部 八つの質問】

  1. なぜ経済は不況に陥るのか?
  2. なぜ中央銀行は経済に対して(持つ場合には)力を持つのか?
  3. なぜ仕事の見つからない人がいるのか?
  4. なぜインフレと失業率トレードオフの関係にあるのか?
  5. なぜ未来のための貯蓄はいい加減なのか?
  6. なぜ金融価格と企業投資はこんなに変動が激しいのか?
  7. なぜ不動産価格には周期性があるのか?
  8. なぜ黒人には特殊な貧困があるのか?

 

人は必ずしも合理的に行動しない、当たり前の事だがいざ科学的(数値で定量化)な理論を作ろうとすると難しく、経済学ではこれまで敬遠されてきた。また、本書ではアニマルスピリットの必要性について「これでもか!」と説明しているが、具体的なモデルを提示できていなかった。

重要性は伝わるが、学術的にはまだまだ超えるべきハードルが多いということだろう。もっとも、本書は2009年に発売されたものなので、今はアニマルスピリットがモデル化されているのかもしれない。